伝道者の心得

 

<ご質問>

tomiさま、夜分申し訳ございません。電子メールを持っていないので、ここに書き込ませてもらいます。

 聖書の勉強を始めてまだ日が浅いのですが、このHP等のおかげで段々と理解できるようになって来ています。中でも今まで色々な人に相談しても納得できなかった「ルカ169節の「不正な富」とは「空虚な富」の意」の解説(教示?)は、目から鱗が落ちる思いで読ませてもらいました。

さて、マタイ福音書の1016節の御言葉が良く理解できません。『鳩のように素直になりなさい』は分かるのですが、どうしてずる賢い蛇のようにならねばならないのでしょうか?

蛇などと言うと、聖書では何か悪いものの代名詞的に使われている気がするのですが、この個所も前者の解説にあったように「抜け目なさ」を著しているのですか。初歩的な質問だと思いますが、この『蛇のように賢く』の意味を教えてください。

 

<お答え>

創世記の堕落の記事(3章)や黙示録(20章)のように、聖書において、蛇や竜は、主に「狡猾さ」「悪」「サタン」の象徴です。しかし、同時に、民数記215-9節のように、「キリストの救い」を象徴することもあります。そのため、「蛇」→「悪」と直に連想することはできません。

また、このマタイ1016節の「賢い」と訳されている言葉(φρονιμοι)は、「知恵がある」「慎重な」「思慮深い」「自分の利益に配慮する」という意味で、必ずしも悪い意味ではありません。

しかし、「蛇のように」という比喩は、毒を含む言葉であることは確かで、この言葉を聞いた人々は、創世記のアダムを騙した蛇を連想したことでしょう。

しかし、あの「不正の富」のたとえと同じように、ここにおいてイエスが「クリスチャンは蛇のように狡猾になりなさい」ということを言おうとされたのではないことは明らかです。もし「狡猾」が奨められているならば、他の無数の聖書の個所、とくにパウロの「悪においては幼子になりなさい」という言葉と矛盾します。

ここにおいてイエスが言おうとされていることを理解するには、前後の文脈を見なければなりません。

この教えは、これから伝道者として遣わそうとする弟子達に向けたものです。

「イスラエルの家の滅びた羊のところに行きなさい。行って、『天の御国が近づいた。』と宣べ伝えなさい。…もしだれも、あなたがたを受け入れず、あなたがたのことばに耳を傾けないなら、その家またはその町を出て行くときに、あなたがたの足のちりを払い落としなさい。」(6,7,14節)

この働きはサタンとの闘いです。

「病人を直し、死人を生き返らせ、らい病人をきよめ、悪霊を追い出しなさい。…」(8節)

サタンは、福音が広まることを恐れ、伝道者を攻撃し、その働きを妨害します。これは、敵の陣地の真っ只中に兵を送り出すようなもので、多勢に無勢です。相手は強暴な狼であり、弟子達は羊です。

「いいですか。わたしが、あなたがたを遣わすのは、狼の中に羊を送り出すようなものです。」(16節)

狼の群れの中に羊が送り込まれたならば、結果はどうなるでしょうか。

そうです。よってたかっていたぶられ、食い殺されるということです。

伝道とは、何かの主義主張をただ漫然と唱えることではありません。それは、壮絶な霊的な闘いなのです。福音が働くところにサタンも必ず働きます。福音を伝えようとする者たちには容赦のない攻撃が加えられ、いたるところに落とし穴が掘られ、罠が仕掛けられます。福音を伝えた相手が回心したとしても、すぐにそれを妨害する者が現われて、クリスチャンにならないように誘惑したり、違った教えを吹き込んだりします。

場合によっては、伝道者が殺されたり、福音を受け入れた人が家族から離縁されたり、嚇かされたり、裏切られたりします。

「兄弟は兄弟を死に渡し、父は子を死に渡し、子どもたちは両親に立ち逆らって、彼らを死なせます。」(21節)

だから、それ相応の警戒が必要なのです。

「人々には用心しなさい。彼らはあなたがたを議会に引き渡し、会堂でむち打ちますから。」(18節)

イエスは、伝道がただの宣伝活動ではない、ということをここにおいて教えておられるのです。伝道とは、戦争であり、生きるか死ぬかの闘いなのです。

戦争において、大切なことは、「ただ素直なだけではだめだ。」ということです。戦場においては、一瞬の油断も許されません。どこから弾が飛んでくるかわからない。仲間をも信頼できない。偽クリスチャンがやってきて、あなたを信頼させ、滅びのほうに引きずり込むかもしれない。あなたの経済や信用を破壊するかもしれない。魅力的な異性が近づいてきて、姦淫の罠にはまるかもしれない。

ナイーブな人は、伝道者になれないのです。

「蛇のように賢くなれ」という教えは、「このような熾烈な戦いの中で生き抜くための知恵を得なさい。誰でも信頼してはならない。どこに落とし穴が開いているかわからない。絶えず警戒しなさい。」ということを教えているのです。人を騙して生き延びることを教えているのではありません。

 

 

02/03/03

 

 

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