未完成の形質は淘汰の恩恵を受けない

 

 よく、DNAの突然変異によって必要なたんぱく質が生まれる確率の話をすると、「淘汰において選択が働いて、生存に有利な遺伝子が残って個体が増えるのであるから、確率はそれよりもずっと高くなるはずだ。」という人がいるが、その人は、「完成された状態に達しなければ生存に寄与しない形質の場合、淘汰は関係ない」という事実を忘れているか、あえて無視している。

 例えば、光合成が完成していない段階では、光合成によって生物は恩恵を受けることができない。実際に光を受けてエネルギーを作ることができる段階にまで達しなければ、その生物は生存において有利な形質を獲得したわけではないから、個体が増えることもないわけであり、それゆえ、その遺伝子が生き残る確率が高くなることもない。

 

 光合成が未機能である段階(例えば、光合成反応によってまだエネルギーが得られていない段階)に至るまでにも、多数の酵素が必要とされ、その酵素を構成するたんぱく質も多数必要とされる。

 

 つまり、この段階までの間に追加されていった反応を促進する酵素とそれを構成するたんぱく質は、淘汰の助けなしに、「純粋に偶然だけによって」生まれたということになる。つまり、DNAの突然変異によって偶然に、たんぱく質が作られ、そのたんぱく質が、ある反応のあるステージにおいて反応を促進する酵素を構成する部分となった、そこには淘汰など自然の選択はまったく働いていなかった、ということなのだ。

 

 御理解いただけただろうか。

つまり、淘汰に影響を与えない未完成の段階の形質は、もっぱら、DNAの並び方の偶然の変化以外のいかなるものにも頼ることはできない。

 

 

 

 




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