あとがき
これは『古代史ファン』49号に掲載したエッセイを手直ししたものである。
今まで古代史の世界に触れることのなかった方々に読んで頂きたいと願ってつたないペンをとった。
現代社会のなかで古代史とは何か。
そういう問い掛けへの答えも含めて書き上げたつもりではあったが、その意図を生かせなかったのは私の力の足りなさを示すものに他ならない。
ここ十数年、私は古代への旅を続けてきた。
その目的地は次第に日本海沿岸部にしぼられ、特に丹後半島の古代、そこを拓き盤踞したと思われる古代豪族日下部氏の足跡を追うこととなった。
王朝交替論に立って古代を眺めると、神武東征伝承を始めとして、伊勢神宮伝承、浦島・羽衣伝説などの民間説話はすべて古代を動かした大族、日下部一族の存在を暗示している。
しかし国撰の史書に王朝交替の史実が抹消された以上、丹後を中心とする日本海勢力、そしてくさかべ一族の歴史などは、すべてが闇の中に閉ざされてしまう事となった。
私の旅は、抹消された歴史を復権させる旅なのである。
幻の日下部を追い続けながら、私は彼らの歴史に意外な展開を見ることとなった。
彼らは古代から中世へ、そして近世へと尾を引きながら、全国各地の鉱山地帯にその影を濃く残していたのである。
古代、おそらく海外から渡来し、九州から東へ移動を続けたであろう彼等は、海と山に別れてそれぞれが活躍の場を作り、全国にその足跡を残す事となるが、山を選んだグループと鉱山との関わりは、資源をおって移動を続けるという”漂泊”の宿命を彼等に選ばせ、史書の主役となりえなかった一因ともなったのであろう。 |