キリスト教(と資本主義)は科学の産みの親である




ベイラー大学社会科学部教授ロドニー・スターク教授は、エッセイHow Christianity (and Capitalism) Led to Scienceにおいて、キリスト教が科学に及ぼした影響について述べている。


ヨーロッパ人がはじめて世界に乗り出したときに、もっとも驚きだったのは、西半球が存在するということではなく、自分たちの技術が他の地域よりもはるかにすぐれている、ということだった。

繁栄を誇っていたマヤやアステカやインカ文明も、ヨーロッパの侵略者を前してはまったく無力であった。中国やインド、イスラム諸国など東洋の文明も15世紀のヨーロッパと比べれば「遅れて」いた。

なぜそうなったのだろう? なぜ、多くの文明において錬金術が研究されていたのに、ヨーロッパにおいてのみ化学が発達したのだろう?何世紀にもわたって、眼鏡や煙突、しっかりと動く時計、重騎兵、音符記法の体系を所有したいたのがヨーロッパ人だけであったのはなぜなのだろう? ローマの瓦礫の中から立ち上がった国々が世界の他の国々よりも優越することができたのはなぜなのだろう?

最近、西洋が成功した秘密は地理学にあったと述べる人々がいる。しかし、アジアよりも遅れを取っていた時代にも、ヨーロッパ文明には地理学があった。また、西洋が優越したのは、鉄や銃、航海船のおかげであるという人もいれば、生産力のある農業のおかげだという人もいる。しかし、そのような答えは、ヨーロッパ人はどうして冶金や造船や農業において卓越できたのか、ということへの答えでしかない。

質問に対するもっとも納得のいく回答は、ヨーロッパの優越の原因は、そこでしか発生しなかった資本主義の出現にあった、というものである。資本主義をもっとも敵視している人々ですら、その前代未聞の驚異的な生産力と発展性を認めている。『共産党宣言』において、カール・マルクスとフリードリッヒ・エンゲルスは、次のように述べた。

資本主義の出現以前に、人間は「きわめて怠惰」であった。「人間の生産活動によってどのようにすばらしいものが生み出されるのかを最初に示した」のは、資本主義のシステムであった。

資本主義は、生産性の向上のために再投資を行うことによって奇跡を生み出した。・・・湯水のように湧き上がる利益は、経営者と労働者の両方を刺激し、それも奇跡の実現に貢献した。

資本主義こそヨーロッパの「飛躍」を可能にした要因であると仮定すると、それではなぜ資本主義はヨーロッパにおいてのみ発展したのか、という疑問が生じる。

資本主義の起源をプロテスタントの宗教改革に求める者もいれば、様々な政治的な環境に求める者もいる。しかし、もっと問題を掘り下げると、「資本主義だけではなく、西洋の勃興そのものの根本原因は、理性に対する一方ならぬ信仰にあった」ということが明らかになる。

理性が尊重され、他の要素に対して勝利を得る過程は、西洋の文明と諸制度にしか見られないユニークな状況であった。これらの勝利の中でも最も重要な勝利は、キリスト教において実現した。他の宗教は神秘と直感を強調したが、キリスト教だけは、宗教的真理を得るための主要な方法は理性と論理であると考えた。

キリスト教が理性を尊重したのは、ギリシア思想の影響であった。しかし、さらに重要なのは、ギリシア思想はギリシアの宗教にほとんど影響を与えなかったということである。ギリシア宗教は、神秘主義のカルトに留まり、あいまいさと論理的矛盾こそ神から出た宗教であることのしるしと考えられた。神とはこのように基本的に神秘的なものであるという前提や、内省・瞑想の重視は、他の主要なすべての世界的宗教において支配的な特徴であった。

しかし、ごく初期のころから、教父たちは、「理性こそ神からの最高の賜物であり、聖書と啓示をよりよく理解するための手段である」と教えた。その結果、他の主要な宗教が過去志向であったのに対して、キリスト教は未来志向になった。・・・キリスト教の教理は、理性によって照らされる度合いが増えるにつれて、進歩の名のもとにつねに修正を加えることができるものとされた。スコラ学者の活動と、教会が建てた中世の大学の教育を通じて、理性信仰は、西洋文明に深く浸透し、科学的探求と民主主義の理論と実践に拍車をかけた。


つづく

 

 

2006年4月10日

 

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