テトス2:11は普遍救済を教えているか?


<O様>
福音総合研究所が出した、スミス師の「福音の勝利」中にあったのです。以下引用します。


「欽定訳をはじめ幾つかの英訳では「すべての人」を「現われ」という動詞につなげて「救いをもたらす神の恵みがすべての人に現われ」としているが、和訳として本文に挙げた新改訳やNASBのように理解するほうがよい。」

当該箇所は、

NKJV : For the grace of God that brings salvation has appeared to all men
NASB : For the grace of God appeared, bringing salvation to all men
The Interlinear Bible : appeared For the grace of God saving to all men

となっています。

私はまだギリシャ語文法がわからないので、正確な分析ができません。確かに一旦は、NASBの「ほうがよい」か、とも思ったのですが、しかしそうすると、「神の恵みはすべての人を救う」で、万人救済説になってしまうのでは??という疑問が湧いてきました。今朝は聖書通読でヘブル書を(NKJVで)読んでいたのですが、どうも、当該箇所の翻訳としては、新改訳やNASBより、NKJVのほうが、聖書のメッセージとしては、より正確なのでは、と思えてしかたがありません。

<tomi>
ギリシャ語テキストは、次のようになっています。

(1)επεφανη (2)γαρ (3)η χαρισ του θεου (4)η σωτηριοσ (5)πασιν ανθρωποισ
(1)appeared (2)For (3)the grace of God (4)saving (5)all men

(1)現れた (2)というのも・・・からです (3)神の恵みが (4)救いを与える (5)すべての人に

(4)η σωτηριοσ は「救いを与える」という形容詞句で、(3)を修飾しています。ですから(3)(4)は「救いを与える神の恵みthe saving grace of God」という意味です。

(5)は、与格なので「〜へ」「〜に」という意味。これが(1)とつながるか、それとも(4)とつながるか2つの解釈の可能性があります。

(1)につながると考えると、「すべての人に現れた(appeared to all men)」となり、次のように訳すことができます。・・・@

For the grace of God that brings salvation has appeared to all men(NKJV)
「というのも、救いを与える神の恵みがすべての人に現れたからです」

(4)につながると考えると、「すべての人に救いを与える(saving all men)」となり、次のように訳すことができます。・・・A

For the grace of God saving all men has appeared.もしくは
For the grace of God bringing salvation to all men appeared.もしくは
For the grace of God appeared, which brings salvation to all men
「というのも、すべての人に救いを与える神の恵みが現れたからです」

しかし、NASBの以下の訳は不正確です。
For the grace of God appeared, bringing salvation to all men

ここで、bringingは形容分詞というより副分詞として解釈される(, bringingはカンマ+分詞であり、しかもthe grace of Godから離れて置かれている)可能性が高く、付帯状況と解釈され次のように訳されてしまう恐れがあります。

For the grace of God appeared and brought salvation to all men
「というのも、神の恵みが現れ、すべての人に救いを与えたからです」

こうなると、万人救済を述べていると解釈されてもしかたがありません。

しかし、原文は、(3)η χαρισ του θεου (4)η σωτηριοσ となっており、(4)は(3)を後ろから修飾する形容詞句であることは明らかなので(*)、「救いを与える神の恵み」以外に訳しようがなく、それゆえNASBは誤訳される可能性がかなり高い(おそらく90%以上)と言えます。(**)

(*)ηは冠詞です。この(3)η χαρισ ・・・ (4)η σωτηριοσのように、冠詞+名詞+冠詞+形容詞という並び方の場合、ギリシャ語ではこの形容詞が名詞を後ろから修飾する「属性的形容詞」と考える規則があります。
ギリシャ語では属性的形容詞と名詞の並び方、例えば「良い言葉」では通常次の2通りあります。(メイチェン『ギリシャ語原典入門』pp.38-40)
(I)ο αγαθοσ λογοσ (=the good word)
(II)ο λογοσ ο αγαθοσ (=the word the good)
という形になります。

(**)この原文はマジョリティ・テキストですが、テキストによっては(4)がσωτηριοσとなっており、つまり、ηが抜けているものがあります。しかし、文脈から考えて、ηを補って考えるのは当然です。ηの有無が解釈に影響を与えるとは考えられません。

 

 

2008年3月25日

 

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