墓穴を掘る中国



 ニューヨーク・タイムズ紙は19日、中国が日本だけでなく欧米までレアアース(希土類)の禁輸を拡大したと伝えた。
(引用部分中略)
 この記事が正確だという前提で話を進めると、中国政府の行動を説明するには3つの仮説が考えられる。

 まず1つ目は、これはあくまで中国の内政に起因する問題だという仮説。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、欧米へのレアアース禁輸が決まったのは中国共産党の第17期中央委員会第5回総会(5中全会)の後だったという。

 人民元の切り上げを迫る欧米との緊張が激化し、またアメリカがWTO提訴に向けて動き出す中、一部のナショナリスティックな反発を抑える必要があったのかもしれない。もちろん、中国の国内政治の実情がどんなものか本当にわかっている人間などいないから、
この説の信憑性は誰にも分からない。

■中国指導部が私の著書を読んだ?

 2つ目の仮説は、私の著書『制裁のパラドックス』を中国指導部が読んだ、というもの。この本の中で私は、制裁を課した国と
課された国の間で将来さらに対立が強まる可能性が高い場合、両国は互いに経済的な圧力を掛け合うものの、結局は最低限の
譲歩しか引き出せないと書いた。

 今のところ、この理論は現実にうまく当てはまっている。レアアースの対日輸出を制限した中国が得たものは、漁船の船長の解放だけだった。たぶん中国側は、レアアース禁輸の拡大によりアメリカ政府がWTOへの提訴をあきらめると期待しているのだろう。禁輸拡大という今回の措置から期待できる成果なんてその程度のものだ。

 3つ目の仮説は、経済的影響力をいかに行使すべきかについて、中国は愚かしいほど近視眼的な考え方をしているというものだ。
清華大学(北京)のパトリック・チョバネク准教授はこう書いている。

(中国は)自ら墓穴を掘っているようなものだ。比較的ささいな事件で力を誇示しようとするあまり、貿易相手国を驚かせ、たぶん遠くへ追いやってしまったのだ。
(中略)

■「中国外し」が始まる恐れも

 一次産品をめぐる対外政策を見ていると、中国政府は資源を物理的に支配することだけを重視し、市場の力を甘く見ているのでは
と思えてしまう。一次産品市場をそんな短絡的な視点から考えるなんてあまりにばかげているし、各国からも容赦ない対抗策が出てくるだろう。

 レアアースの生産拡大に向けて補助金をつぎ込んでいる国はいくつもあり、今後5年間で中国以外の国々からのレアアース生産量は
急増するだろう。熱烈な自由市場主義者であっても、そうした各国の対応に異論は唱えないはずだ。

 さらに重要なのは、経済的影響力の行使に対する中国の考え方が、他の国々の政府にも影響を及ぼしているということだ。もし中国の経済外交のやり方に対し、少なからぬ数の国々が自国と中国との相互依存度を下げるべく同じような手段で対抗したらどうだろう。
中国が今「お手本」として示そうとしている通り「地政学が経済に勝つ」事態を招くことになるだろう。

 もうひとつの可能性は世界の国々が中国を締め出してかつてのココム(対共産圏輸出調整委員会)のような枠組みを作り、あからさまな経済ブロックの創設を推進するというものだ。

 そうなれば中国政府にとっては最悪の事態になるはずだ。たしかに中国は経済成長を続けている。だが経済に対する影響力という意味で言えば、市場志向のビジネスを好む国々の勢力のほうがはるかに大きい。

 短期的な利益を追うあまり、中国は長期的な封じ込め政策を招きいれつつある。そうすることで国内ではある程度の求心力を維持
できるかもしれないが、経済には大きな損失をもたらすことになるだろう。

ソース(ニュースウィーク日本版、ダニエル・ドレズナー氏)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2010/10/post-1733.php

主の御名によって、中国が墓穴を掘り続けることを祈願する。

 

 

2010年10月21日

 

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