箱舟が象徴する新世界
(T)
聖書において、海は、不信仰や不安定の象徴として描かれることがある。
「彼らは、あなたがたの愛餐のしみです。恐れげもなくともに宴を張りますが、自分だけを養っている者であり、風に吹き飛ばされる、水のない雲、実を結ばない、枯れに枯れて、根こそぎにされた秋の木、自分の恥のあわをわき立たせる海の荒波、さまよう星です。まっ暗なやみが、彼らのために永遠に用意されています。」(ユダ12‐13)
海は「さまよう星」と同様に揺れ動いて落ち着かないものとして描かれ、一部、黙示録では、異邦人を象徴している(13章)。
異邦人(新約時代においてノンクリスチャン)は、落ち着きがない。なぜならば、聖書という土台がないので、目の前の現象に一喜一憂し、周りの環境に依存しているからである。真理よりも、目先の評価を気にして、心を騒がせている。
しかし、イスラエル人(新約時代においてクリスチャン)は、聖書という土台があるから、人間の評価、感情、トレンドなどに動かされない。
我々の周りには、我々を貶めてダメにしようとしている霊がいる。しかし、それと同時に、我々の周りには我々を取り巻く無数の御使いもいる。
信仰の目があれば、我々の状態が強固な守りの中にあることが分かるはずだ。
「そして、エリシャは祈って主に願った。『どうぞ、彼の目を開いて、見えるようにしてください。』主がその若い者の目を開かれたので、彼が見ると、なんと、火の馬と戦車がエリシャを取り巻いて山に満ちていた。」(2列王記6・17)
信仰に入ることによって我々は安定する。
だから、聖書においてイスラエルやクリスチャンの象徴は「陸」とか「岩」なのである。
「あなたはペテロです。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てます。」(マタイ16・18)
我々の以前の状態は「海」であった。しかし、今は「陸」だ。
(U)
神はまず海を創造され、そこから陸を現し、最後に園を作られた。
この不安定から安定への3つの段階は聖書に一貫して存在するパターンのように思われる。
出エジプトにおいてイスラエル人は、(1)エジプトという異邦人の海から出て、(2)聖地カナンに入り、(3)そこに神殿を建設した。
旧約聖書全体でも、ノアの後、(1)世界の諸民族の系図が描かれ、(2)アブラハムの選びが描かれ、(3)ソロモンにおける神殿建築が描かれる。
イスラエル人が罪を犯して捕囚にあい、その後世界に離散させられたことは、海の中に放り込まれたのに等しい。
離散は、秩序が破壊され、混沌の中に逆戻りしたことを意味する。
創造は、「分ける」ことを通じて実現する。光と闇を分け、空と海を分け、海と陸を分け、エデンと他の場所を分け、園とエデンの残りの部分とを分ける。
裁きは、この逆の効果を生み出す。創造の際に分けられたものは、洪水の中で混沌化した。
文明が罪を犯すと、神は野蛮人を用いて、それを破壊されることがある。ローマが滅亡した一つの原因は、多くの野蛮人の侵入にあった。英語でバンダリズムと言えば、公園や地下鉄などの公共物等への毀損、破壊を意味するが、これはローマを侵略したバンダル人の蛮行から来ている言葉である。
神は、文明が堕落すると、その文明を破壊して、もう一度、やり直しをさせられる。それは、再創造である。
イスラエルが執拗に罪を犯したので、神はネブカデネザルを起こし、エルサレムと神殿を破壊された(2列王記25・1‐21)。
しかし、神はこの反創造(decreation)の後に、3段階の再創造(recreation)を行われた。
まず(1)異邦民族を救い、ダニエルのもとで回復された(ダニエル4,6)。(2)次にイスラエルを回復し、彼らを故国に戻し、(3)最後にハガイ、ゼカリヤ、ヨシュア、ゼルバベルのもとで神殿を再建された(ハガイ1−2、エズラ1−5)。
世界全体の回復も、同じ順序を踏むだろう。
(1)まず異邦人が救われ、(2)ユダヤ人が回復し、(3)最後に神殿が再建されるだろう。
ただし、ここにおいて神殿とは、イエス・キリストの体と、クリスチャンの体である。新約聖書において、これらが神殿であると述べられている(1コリント6・19)。
(V)
ノアの洪水から逃れた人々は、箱舟に入った。
箱舟は、神の裁きによる世界の混沌化からの救いを象徴しており、それゆえ、それ自体が再創造である。
つまり、箱舟の外が海であるのに対して、箱舟は陸である。
ウェストミンスター神学校名誉教授メレディス・G・クラインはこの箱舟の構造について興味深いことを述べている。(http://www.wscal.edu/faculty/mkline.htm)
(箱舟は)神の霊的な家である。天地という創造主の宇宙的住居や、後の、イスラエルの小宇宙である幕屋と神殿は、神の霊的な家を象徴するモデルである。
ここで、箱舟は、この宇宙的住居としての神の御国を表現するものとして設計された、ということを見るべきである。
というのも、箱舟は、航海に適するものであったが、船としてではなく、家のようなものとして作られたからだ。箱舟に関する記述に現われたすべての特徴(3階建て、扉、窓)は、家屋の建築のそれである。
(Meredith G. Kline, Kingdom Prologue, 3 vols. (by the author, 1983) 2:105.)
箱舟の窓は、この物語で触れられている「天の窓」(7・11、8・2)の対照物である。適切にも、窓は、(天を表す)最上階の一部として、箱舟の最上部にある。
このことから当然のこととして、読者は、箱舟の扉と、海の深みを閉ざしてその誇り高ぶる波を抑える扉とを比較するように導かれる。(この宇宙論的象徴についてはヨブ38・8-11を参照せよ。)
(同上)
2004年7月24日
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