無能な環境と判断したら早めに立ち去ることである
ソ連に暮らしていたとき、完全な孤独に落とされた。
10人の日本人研修生のなかでクリスチャンはわたしだけ。
残りは、週末になると外国が建てたホテルに行った。
非常に多くの女性が集まっていた。目的はお金稼ぎ。
彼らの仲間うちで情報が回っている。
私だけ外されていた。
同僚からは「おまえがいると、責められている感じがするんだよな」と言われた。
帰国してからも、商談になると女の話。
ついて行けなかった。
外国の客が来ると、そういう類の店に連れていくのが慣例だったが、私はできなかった。
課長から嫌味を言われた。
「最近うちの課はまじめなんだよ」と。
会社の寮の私の部屋にエロ本がないのが部の人々の間に知れた。
まじめなのはいいが、研修ばかりして仕事をなかなか教えてくれないので「単なるまじめな仕事のできない社員」であることが苦痛だった。
あのような「引き伸ばし」は神がなさったのだと思っている。
逆境につぐ逆境だった。
自分の力ではどうしようもない。
しかし外国の客には好かれた。
特別に私とだけ食事をしたいと言って、台湾やイランの客から招待された。
ようやく実務につきはじめると、すぐに仕事を覚えた。
「なんだ全然仕事ができるじゃないか」と評価が変わった。
長期研修とOJTの指導員が実務につかせないことが原因だったとわかった。
自動車の運転講習でも、実技をしないで理論ばかり教えても上達しないのは明らかである。
会社は教育にかんしてはアマチュアであった。
さらに、運転を教える際には、ハンドル操作だけとか、ブレーキ操作だけ個別に教えるより、実際に運転させて、その中で教えるほうが効率がいい。
しかし、会社は、コピーとりだけ、タイプうちだけ、テレックスの配布など、個別の事柄だけを延々とさせた。
あとは、ベテラン社員といっしょの客先周り。
こんなことを2か月も3か月もやっていた。
仕事を覚えるわけがない。
実際に自分でなにからなにまでやらせなければだめだ。
そして、無駄な叱責、罵倒。
厳しければいい、というバカげた精神論。
とにかく新人教育の稚拙さが目だった。
科学的な新人教育のノウハウが確立していない職場は、優秀な社員を失う。
後から振り返ると、私を効率的に利用できる上司は皆無だった。
91年ころからマックのソフトのローカライズの仕事を独立して始めた。
マックを使った翻訳とDTPをすぐにマスターし、それからずっと仕事が途切れたことがない。
私の性格は、他人が仕事に介入すると、本領を発揮できないタイプ。
だから、チームでやる仕事は向いていない。
もちろん持ち場を限定して、仕事の範囲を限定してくれればできる。
実際、船積みドキュメント作成の仕事を単独で任されてからは、営業からの受けがよかった。
私は馬鹿が嫌いである。
ただ怒鳴ってばかりいて実質的なことを指示しない馬鹿。
本質を外して、細部にこだわり、全体を損なう馬鹿。
プライドやメンツにこだわり、よいものを取り入れるのを拒んだり、逡巡したりする馬鹿。
こんな人間と付き合わなければならないのが社会なのだが、できれば避けたい。
無能な環境と判断したら早めに立ち去るべきと思う。
2017年7月1日
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