自信を粉砕されるような体験は神の恵みである



「心の貧しい者は幸いです。天の御国はその人たちのものだから。(マタイ5・3)

自分を義人だと自任し、他の人々を見下している者たちに対しては、イエスはこのようなたとえを話された。
「ふたりの人が、祈るために宮に上った。ひとりはパリサイ人で、もうひとりは取税人であった。
パリサイ人は、立って、心の中でこんな祈りをした。『神よ。私はほかの人々のようにゆする者、不正な者、姦淫する者ではなく、ことにこの取税人のようではないことを、感謝します。
私は週に二度断食し、自分の受けるものはみな、その十分の一をささげております。』
ところが、取税人は遠く離れて立ち、目を天に向けようともせず、自分の胸をたたいて言った。『神さま。こんな罪人の私をあわれんでください。』
あなたがたに言うが、この人が、義と認められて家に帰りました。パリサイ人ではありません。なぜなら、だれでも自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるからです。」(ルカ18・9-14)

1.

「心の貧しい者」の「貧しい」に当たる原語ptochosの語源は「縮こまる」という意味で、ここから「乞食」「極貧」を意味するようになった。

「心の貧しい者」(ptwcoi tw pneumati)は直訳すると「心において極貧である人」「心の乞食」である。

神の御前に「自分には誇れるところが何もない」と自覚し、縮こまって物乞いをするほど落ちぶれている状態を表現している。

ルカ18・9-14の取税人がこの例である。

彼は、「遠く離れて立ち、目を天に向けようともせず、自分の胸をたたいて言った。『神さま。こんな罪人の私をあわれんでください。』」

「目を天に向けようともせず」は、神に対して自分はただ憐れみを乞うしかない破産者であると自覚していることを示している。

それに対してパリサイ人は「立って、心の中でこんな祈りをした。『神よ。私はほかの人々のようにゆする者、不正な者、姦淫する者ではなく、ことにこの取税人のようではないことを、感謝します。
私は週に二度断食し、自分の受けるものはみな、その十分の一をささげております。』」

「ほかの人々のようにゆする者、不正な者、姦淫する者ではなく」「ことにこの取税人のようではない」

パリサイ人は、人と比べて満足し、戒律を外面的に守っていた。

しかし、イエスは、罪とは第一義的に神に対するものであり、心が汚れるならば罪人であると言われた。

まことに、あなたがたに告げます。もしあなたがたの義が、律法学者やパリサイ人の義にまさるものでないなら、あなたがたは決して天の御国に、入れません。・・・

しかし、わたしはあなたがたに言います。だれでも情欲をいだいて女を見る者は、すでに心の中で姦淫を犯したのです。(マタイ5・20、28)

「心の中で姦淫を犯した」人は誰でも罪人である。

だから、神の御前に義人は一人もいない。

自分を誇れる人は誰もいない。

自分の義によって御国に入ることができる人は誰もいない。

だから「自分を義人だと自任し、他の人々を見下しているパリサイ人の義」では御国に入れない。

御国に入れるのは「パリサイ人の義にまさるもの」だけである。

それは「心の貧しい者」である。

「天の御国はその人たちのもの」である。

つまり「遠く離れて立ち、目を天に向けようともせず、自分の胸をたたいて、『神さま。こんな罪人の私をあわれんでください』」という者だけが「義と認められ」る。

2.

クリスチャンに自信を粉砕される出来事がたびたび起きるのは御国に入るためである。

「自分を義人だと自任し、他の人々を見下」すことがないためである。

自分が罪人でしかないと自覚させるためには、失敗は必要である。

この世に、連戦連勝の体験に耐えられる人はいない。

レスリングの吉田沙保里のように、公式戦119連勝、国際大会における27大会連続優勝という勝利を記録してなおも謙遜でいられる人はいない。

彼女がどういう人かは知らないが、見たところ傲慢には見えない。

私がこのような体験をしたら絶対に鼻持ちならない人間になり、自分を滅ぼすことになるだろう。

神は憐れみによって、私に失敗を与えてくださる。

パウロは自分の目の病気を神の恵みだと述べた。

・・・私は、高ぶることのないようにと、肉体に一つのとげを与えられました。それは私が高ぶることのないように、私を打つための、サタンの使いです。(2コリント12・7)

「とげ」は触れると痛い。しかし、致命的な問題ではない。

傲慢は致命的な問題である。それによって御国に入れなくなる。

われわれに致命的ではない問題が与えられるのは、われわれが滅びないためである。

自信を粉砕されるような体験は神の恵みである。

 

 

2018年2月27日



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