国家転覆の方法(全) by 元KGB工作員ユーリー・ベズメノフ(トマス・シューマン)
ニュースワード国際特派員セミナーでのトマス・シューマン氏による講義(1979年2月22日から24日まで)より
第一段階:戦意はく奪(10〜30年の準備期)
この時期において、転覆工作は、国家及び人間の活動の様々な「レベル」において―すなわち、意識(イデオロギー)、権威(社会政治的権力および政府)、物質的な豊かさ(経済)の各レベルにおいて―同時平行的に進められる。
意識(イデオロギー)のレベル
マスメディア、教育制度、宗教組織及び宗教グループ、文化的および職業的な集団及び/または組織への浸透。主要な目的は、国家および個人の現実認識を心理学的に変える事にある。すなわち、国家の大多数の人々が、全体主義から生じるいかなる危険性をも知覚できないようにし、さらには、自らに敵対する制度が非好戦的であり、ある面では望ましいものであり、どの点から見ても機能的なものであるかのように錯覚させ、現在の体制にかわり得る制度であるかのように思わせることにある。
戦意をはく奪するうえで最も効果的な方法は、人々が使っている言葉の意味を変えること、すなわち言葉の汚染である。言葉の本来の意味や伝統的に受け入れられてきた意味を徐々に、事実に反する別のものにすりかえる。例えば、 「愛国戦線のゲリラ」の意味を「自国の無力な国民に対して大虐殺やテロを実行するソ連政府が訓練した武装正規軍」に変える。「国際連合」を「様々なエリートや臨時政府の代表者たちがイデオロギー戦争を繰り広げるためのフォーラム。ただし、彼らの大多数は、いかなる国家とも全く関係がない(ベラルーシ、ウクライナ、東ドイツなどの国連「大使」)」に。「世界平和会議」を「西側(アメリカ合衆国)に対する局地的軍事衝突を支える、ソ連後援のプロパガンダ前線組織」に。「無料の医療支援」を「国民の税金に基づく政府支援のサービス。個々人の実際のニーズや能力、利益とは無関係な人々にも提供される」に。
権威のレベル
このレベルの転覆工作には、外国の政策決定機関だけではなく、国内の様々な組織への浸透が必要である。国内の転覆工作員は、国防を弱体化させるために働く。例えば、公安、警察、軍隊、行政事務、その他の公共サービス(国有の交通・郵便・水道など)を弱体化させる。その方法は、最も重要な公共サービスに対する信頼を失墜させること。すなわち「不祥事」の調査、国の指導者や政治家たちの腐敗や性的スキャンダル、詐欺事件または疑惑への関与を暴くこと、及び、メディアによる中傷戦術。「愛国主義的な」ものをすべて「精神異常」と決めつけ、あざけること。転覆工作員(KGBなど)の活動を暴くあらゆる試みを「偏執狂」として描く。国民やメディアや議会に対して、転覆工作の事実を証言するあらゆる人物の信用を失墜させる(共産主義国からの移住者たちを「感情のバランスが取れない人々 」として描く。ソルジェニツィンを「傲慢な予言者、守銭奴」と呼ぶ)。
国外における転覆工作は、それを行う国の他の組織との関係を中心に展開される。対象国を追い詰めて、詐欺まがいの「武装解除キャンペーン」を実施させたり、空想的かつ非実証的なSALT(戦略兵器制限)協定を結ばせたりする。「資本主義」国を互いに孤立に導き、様々なブロックに分裂させると同時に、互いに孤立したそれぞれのブロックを、全体主義国陣営との「秘密協定」に導く。アメリカ合衆国がその同盟国(台湾、ベトナム、韓国、南アフリカ)を裏切るように仕向ける。工作対象国の指導者たちに働きかけて、あらゆる種類の偽りの「共同宣言」に署名させる。この「共同宣言」では、転覆工作を行う国があたかも良識と寛容さに富む、貴重な国であるかのような印象が与えられる。
経済のレベル
工作国にのみ有利な不平等な協定(特恵貿易待遇「協定」、漁業「協定」など)を西側諸国に結ばせる。ダンピング政策を推し進める(「フィアット12811」のレプリカであるラーダをカナダで半額で売る)。カナダには、トラクターエクスポート社(トロント)、エメクトレイディング社(バンクーバー)、ソカン・エアクラフト社(カルガリー)のようなソ連系の会社が約20社あり、年間7桁の利益を生み出している。目的は、カナダやアメリカの類似企業を潰し、得られた巨額の「流動」資金をターゲット分野における他の転覆工作に投資することにある。
第二段階:不安定化(5ヶ月〜2年)
A.労働組合への浸透及び「思想教育」を通じての労働者の動員および挑発。すなわち、1.不必要なストライキを発生させ、「需要は増大している」との偽情報を同時に流し、インフレーションを起こし、生産性を低下させる。2.「強い政府」と「管理」が必要であることを宣伝する。3.「草の根」運動及びマイノリティーグループ(同性愛者、有色人種、ウーマン・リブ、刑務所解放、キッズリブ、ファートリブ)の武装化。4.国民の関心を重要性の低い問題(路上での犬のウンチの処理など)に逸らす。5.常習犯罪者に対する態度を軟化すべきであると言いつつ、遵法者に対して、銃の規制を強化すべきだと主張する。B.以上により、将来発生するはずの政治的なテロリズムにおいて、国民が無力かつ無防備になるように工作する。C.民主的な制度(議会や市役所)を解体し、中央集権的な政府が指名した多数の諸団体に置き換える。人々が選挙やリコールによって、これらの諸団体を改変することは不可能である。D.国民の(民族的、人種的、宗教的、言語的)統合を破壊する。輸送機関や発電所などを破壊し、事故を発生させ、人々を不安にし、パニックに陥れる。
第三段階:崩壊・破壊(2週間〜1ヶ月)
経済崩壊、全体ストライキ、テロリズムと犯罪の増大、不満の増大、通貨危機(ゴールドラッシュ)、政府の崩壊及び代替の「臨時」政府の導入。権力が武装した「革命」集団の手に集中する。この集団は、後に解体される。国民は転覆工作の最終段階、すなわち「共産占領軍(キューバ軍やソ連軍など)の投入」を受け入れる用意がある。
これに対してどうすべきか。破壊工作を防ぐことが可能なのだろうか。
可能である。それには国民の一致した努力が必要である。民主的な国家は、祖国に対する献身や愛国心、士気の高揚、労働倫理の強化、あらゆる伝統的な価値観の回復のために尽力しなければならない。
抜本的な対策の中でも、以下のものが重要である。すなわち、反民主主義的、好戦的、過激かつ不道徳な集団の自由を制限すること。再選挙を実行し、責任感のある「カリスマ的ではない」指導者を選ぶこと。通貨改革を行い、破壊工作を行う国のすべての資産を没収する(「凍結する」ではない)。破壊工作を行う国のすべてのエージェントたちを追放し、それについて謝罪も説明も一切行わない。
反共産主義の、極端ではなく攻撃的では無い専制国家との友好関係を確立する。国民に対しては自制と節度を保つように訴え、状況が深刻であること、そして基本的な自由を確保するためにいくつかの小さな自由を犠牲にしなければならないと伝える。しかし、最悪の状況に至り、国が内部の「革命的な」勢力によって侵略され―つまり「解放」され―た場合にはどうしたらいいのだろうか。まだチャンスはあるのだろうか。チャンスはある。
コールドを買ってならない。 「解放者たち」はゴールドの「国有化」を宣言し、それを貯蔵する者を殺すだろう。
リーダーシップの質を高めなさい。あなたはレジスタンスグループのリーダーになるかもしれない。
教会や他の組織を通じて団結を強めなさい。
内戦においては、 「あなたの隣人を愛せよ」との命令はきわめて重要な意味を持つだろう。愛情がないところでは、あなたもあなたの家族も狼狽と流血の地獄を体験することになる。
火器の使い方を学びなさい。戦争が始まるかなり前から警察官や軍人と友達になっておくべきである。それは今である。
サバイバルの技術を学び、食物の育て方や狩りの仕方、避難所の建設方法、暖房の取り方を学びなさい。
どのような「進歩的マルクス経済」政策であっても、それを実施すると、生存に必要なあらゆる物資はひどく欠乏するようになる。
隣近所の人とプールを共有し、その作り方を学びなさい。そして車やガソリン、食物、弾薬、医薬品の利用、技術的ノウハウについて調整しなさい。
緊急事態において必要不可欠なプロフェッショナルの技術を学びなさい。例えば機械や無線技師、医者、パイロット、電気技師など。
「侵略者になりうる人々(ロシア人、スペイン人、中国人)の言葉を学びなさい。
他人と協力する技術を学びなさい。ただし、誰からも助けをもらえない場合に備えなさい。
自給自足の技術を学びなさい。
状況を把握するために情報を入手し続けなさい。どのような「進歩的な革命」体制であっても、あらゆるマスメディアに対してすぐに完全な検閲制度を確立しようとする。
小さな短波ラジオとCB無線送信機を入手しなさい。後者は、地下通信に必要になるかもしれない。
自分の町において安全な避難場所に至るルートを確認しなさい。産業の中心地は、共産主義者が放つロケットや、ソ連やキューバが訓練した都市テロリストの両者にとって最も狙いやすいターゲットである。
第四段階:「正常化」 (無期限)
国家指導者や軍や公安のトップの排除(または処刑)。ショックの中にある人々は「レジスタンス組織」を作る。しかし遅すぎる。新政府は、そのレジスタンスを「帝国主義者の陰謀」(CIA)であると宣伝し、ソ連(キューバ)に対して支援を「要請する」。間もなく戦車と飛行機が到着する。その後、外国特派員と外交官が「スパイ」として排除(または処刑)され、あらゆるマスメディアに対する「革命勢力による」検閲が開始される。政治的な敵対者が大量に排除される。「人民の敵ども」のために収容所が急ピッチで建設される。国民のあらゆる生活が組織化され、生活必需品の欠乏が起き、大規模テロが発生する。通常、ここでそれまで循環的に発生していた様々な事件が終息し、「解放された」国は無期限に共産主義勢力の衛星国になる。これでも最も苦痛の少ない過程である。次の2つは、極めて悲劇的な過程である。
1. 国際的な(多国籍の)軍事衝突(インドシナ) 、または
2. 内戦および国民に対する大規模テロ
このいずれの場合においても、「解放された」国ではこの時までに次のことが起きている。すなわち、国内は完全に無防備にされており(警察や公安はすでに破壊されている)、個人は守りを失い(銃器は没収されており、何年もの間、国民を守るための政策は停止されている。「革命家たち」の集団には絶対的な自由が与えられており、彼らが望むところは何であっても、革命の名のもとに制限なく行うことができる)、対外的にも無防備にされ(軍隊は武装解除されSALT協定のもとで無力化されている)、友好国はいなくなっている(同盟国に裏切られ、アメリカ合衆国も濫用され、国際連合はすでに「解放された」国々によって占められている)。
かくして、世界の中で助けの手を差し伸べてくれる国はなく、あなたの国の「正常化」を阻止してくれるものは誰もいない。これは序の口であり、世界の残りのすべての民主的な(または、独裁的な非侵略)国において同じことが起きる。政府やメディアは、長い間「社会主義」および「デタント」の夢物語を伝えてきたので、人々は、国内の「人民の」権力を確立しても悲劇的な事態は起きないだろうと考えている。・・・
転覆工作は完了し、成功する。それ以降、工作員に汚染された体制は安定化に向かい、成長し、最終的には、正常かつ健康的な国は破壊される。バラバラにされた個々人は、貪欲な政府の餌食になる。
2016年7月28日
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