償いの程度



牛とか羊を盗み、これを殺したり、これを売ったりした場合、牛一頭を牛五頭で、羊一頭を羊四頭で償わなければならない。
もし盗んだ物が、牛でも、ろばでも、羊でも、生きたままで彼の手の中にあるのが確かに見つかったなら、それを二倍にして償わなければならない。(出エジプト記22・1, 4)

犯罪の代償は、その罪の程度に応じたものでなければならない。

盗みの場合も、被害者が被った被害の額に応じた償いをするが、それは次の3つの方法による。

1.被害者に盗んだものと同等のものを返す。

2.盗んだものを失ったことにより被害者が被った損害を埋め合わせる。

3.泥棒を見つけるのにかかった費用を償う。

(Gary North, Tools of Dominion, p.506.)

この3つを満たすには、盗品が(殺したり売ったりして)手元にない場合は被害額の4〜5倍(1節)、手元にある場合は2倍(4節)を支払わねばならない。

この律法では、羊の場合は4倍であり、牛の場合は5倍に設定されているが、なぜか。

R・J・ラッシュドゥーニーは、その理由を次のように説明する。

多重賠償は、正義の原則に基づく。羊は、出生率が高く、食肉・羊毛・衣服など用途が広い。羊を盗むことは、他人の財産の現在と未来の価値を奪うことである。

…牛は、訓練により荷車を引いたり、畑を耕したり、様々な農作業を行わせることができる。牛は食肉としてだけではなく、調教による様々な作業にも利用できる。そのため、調教による技術の習得にかかる時間と労力の分だけ賠償の倍率が上がる。

ここで、賠償の原理が明らかになる。賠償は、盗品の現在及び未来の価値だけではなく、特殊な習得技能も考慮に入れなければならない。

(R. J. Rushdoony, Institute of Biblical Law, Nutley, NJ, Craig Press, 1973, pp. 459-60.)

つまり、賠償においては、その盗品が商品として価値を得るのにかかった労力をも計算に入れなければならない。

ゲイリー・ノースは、牛が5倍の償いを要する理由を次のように説明する。

牛にはなぜ5倍の償いをしなければならないのか。なぜ4倍ではないのか。おそらく、牛は、荷物を運ぶための動物であり、それゆえ、支配の道具だからだろう。

牛は、羊ほどではないにしても、従順である。しかし、神の支配の契約を象徴する。5という数字は、聖書契約と関係する。また、イスラエル軍の編成は5という数字に基づいていた。(James B. Jordan, The Sociology of the Church (Geneva Ministries, 1986), pp. 215-16)

数字の5は、支配と関係がある。盗まれた牛を殺すことによって、その泥棒は、自分の現在の楽しみのために、他人の経済的未来を象徴的に犠牲にする。

(Gary North, Tool of Dominion, p.525.)

神の国のために働く人から神の国のための道具を盗むことは、特別に罪が重い。

神が人間を地上に置いた理由は、神の国を拡大させるためである。

それゆえ、支配を妨害する行為には、普通の償いよりも重い償いをしなければならない。

 

 

2015年9月15日



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