アメリカ社会を大きく変えつつある再建主義の影響 『宗教が衰退する中で、あるキリスト教の運動が急速に成長している』という記事(2017年3月16日)において、再建主義の影響が紹介されているのでご紹介する。 筆者はバイオラ大学社会学教授ブラッド・クリスターソンと南カリフォルニア大学ドーンサイフ校研究評価上級学部長リチャード・フローリーである。以下翻訳。 ――――――――――――――― 2011年8月、当時米国大統領候補だったテキサス州知事リック・ペリー(現在はトランプ政権のエネルギー担当相を務める)がヒューストンのリライアントスタジアムで開かれていた「ザ・レスポンス:危機の中にあるアメリカのための祈りの呼びかけ」という集会の中央ステージに現れたとき、3万人を超える人々は激しい喝采を送った。ペリーは聖書から引用し、イエスによる救いの必要性について説いた。彼は、数々の問題に圧倒されているアメリカのために祈りをもって締めくくった。 「家庭には不和が、市場には恐れが、政府には怒りがあります。」 ヒューストンのリライアントスタジアムでの一日祈祷及び断食集会「ザ・レスポンス」(2011年8月6日)で礼拝者たちとともに祈るテキサス州知事リック・ペリー(中央及びスクリーン)。AP Photo/Pat Sullivan 5年後の2016年4月9日、1,500マイル離れたロサンゼルス・メモリアル・コロシアムにおいて、何千人もの人々が、アメリカが超自然的に変えられることを祈るために集まった。このイベントでは、世界で最も人気のある数人のカリスマ派のキリスト教指導者たちによる16時間以上にわたる癒しのセッション、礼拝音楽、預言が行われた。 INCに関する発見 INCキリスト教は、しばしば「使徒たち」と呼ばれる「network of popular independent religious entrepreneurs(人気のある独立した宗教者起業家のネットワーク)」に率いられている。彼らは、サラ・ペイリンやニュート・ギングリッチ、ボビー・ジンダル、リック・ペリー、そして最近ではドナルド・トランプ大統領を含む保守的な米国の政治家たちと緊密な関係を築いている。 カリスマ派のクリスチャンは、超自然的な奇跡と神の介入を強調するが、INCキリスト教は他のカリスマ派や、他の一般のキリスト教の教派とは以下の点で異なる。すなわち、
INCキリスト教は、アメリカで、そして、おそらく世界中で、最も急速に成長しているキリスト教のグループである。1970年から2010年までの40年間で、一般のプロテスタント教会の定期的な出席者数は、年間0.05%減少しているのに対し、独立した新カリスマ集会(INCグループが属するカテゴリ)は平均で年3.24%増加した。
カリフォルニア州レディングにあるベテル教会牧師ビル・ジョンソン Kevin
Shorter, CC BY INCキリスト教の影響は、数百万ビューに達するインターネットのメディアサイトや、スタジアムでのラリーや大集会、数百万ドルの売り上げを誇るメディアの販売に現れている。リーダーたちとのインタビューで明らかになったことだが、たとえば、カリフォルニア州レディングに本拠を置くINCミニストリであるベテルは、2013年にメディアの販売(音楽、書籍、DVD、ウェブのコンテンツ)を通じて840万ドルの収入があり、さらに、その「Bethel School of Supernatural
Ministry(ベテル超自然ミニストリ校)」の授業料を通じて7百万ドルの収入があった。 カンザス市に拠点を置くInternational House of Prayer(国際祈りの家:IHOP)のメディアサービス部長によると、彼らのウェブサイトは毎年世界中から2500万を超えるビューを記録し、動画コンテンツにおいて世界でトップ50のウェブサイトの1つである(動画コンテンツの1か月視聴時間は数百万時間に達する)。 INCの魅力 研究の一環として、われわれは、INCキリスト教ミニストリの主な指導者、スタッフ、現在および以前の参加者に詳細なインタビューを行った。また補足的に、変化する宗教事情や大集会の参加、数多くの教会の礼拝、ミニストリに附属する学校の授業、癒しの集会、悪霊追いだしの状況について知識のあるキリスト教の指導者や学者からの聞き取り調査も行った。この詳細なインタビューは、合計で41回に及んだ。
調査の中で、われわれは、INCキリスト教の魅力を、特に若者の間で目撃した。大きな公立病院の緊急治療室で即興の超自然療法の集会を開くというスリル、悪霊を追い出す技術を専門に学ぶクラスの試み、若者のチームを公共の場に送り出し、誰を癒やし、特別な神のメッセージを伝えるべきかを神に直接示していただくというアドベンチャーを目にした。 「文化の7つの山」 数的成長に加えて、INCキリスト教の重要性は「支持者が、キリスト教の信仰と社会の関係について、アメリカの歴史上の大多数のクリスチャンのグループとは根本的に異なる見方をしている」という事実にある。 アメリカのカリスマ派クリスチャンのリーダー、ルー・エングル。 eden frangipane, CC BY しかし、INCの考え方は異なる。リーダーたちは、単に個人を神と結びつけ、教会を成長させるだけでは満足しない。われわれが調査したほとんどのINCキリスト教のグループは「御国を求める人々」を社会のあらゆる分野のもっとも重要なポストにつけることによって、天国または神の意図した完璧な社会を地上にもたらすことを目指している。 INCのリーダーたちは、その分野を「7つの文化の山」と呼ぶ。それには、ビジネスや政府、メディア、芸術とエンターテインメント、教育、家族、宗教が含まれる。この種類の「トリクルダウン・キリスト教」において、彼らは、クリスチャンが7つの「山」の頂上に登り詰めれば、社会は完全に変わると信じている。 われわれがインタビューした一人のINCリーダーは、次のようにまとめた。 「この新しい運動の目的は、個人ではなく、都市や民族グループ、国家などの社会単位を変えることです...。クリスチャンがそれぞれの山に浸透し、7つの山の頂点に登り詰めるならば、社会は聖書的な道徳を備えるようになり、人々は調和して生き、戦争ではなく平和が広がり、貧困も撲滅されるでしょう」と。 インタビューの大多数、出席したイベントやINCのメディア資料において、われわれは、これらの考えを繰り返し耳にした。 最も重要なのは、2016年の大統領選挙以来、一部のINC指導者が次のように公表したことである。「トランプ大統領は、クリスチャンをトップの地位につけることによって『天国を地上にもたらす』という神のご計画の実現の一部である。これらのクリスチャンには、現在エネルギー省の長官を務めるリック・ペリーや、教育長官ベッツィー・デヴォス、住宅都市開発長官ベンカーソンが含まれる。」と。 景観を一新する 今後も多数の支持者を集め続けると思われるINCキリスト教は、注目すべき運動である。それを通じて、魂を救いに導くだけでなく、社会の諸制度を支配することによって社会変革をもたらすことを目指すクリスチャンの数はますます増えるだろう。 われわれは、INCのクリスチャンたちが「文化の7つの山」を支配する可能性は低いと見ている。しかし、この運動が、未来の世代の宗教的および政治的景観を揺り動かすことになると確信もしている。 |
2018年8月1日
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